令和7年11月に、東京大学大学院医学系研究科こころの発達医学分野に着任しました小池進介と申します。当教室は平成22年(2010年)4月に新設された、東京大学大学院医学系研究科の中で若い教室ではありますが、開設に至る歴史は古く、昭和42年(1967年)に精神神経科小児部が立ち上がったところまで遡ります。
発達障害は、社会背景によって捉え方が変わってきた歴史を持ちます。例えば自閉スペクトラム症は、小児部が立ち上がった当初は、言語発達の遅れを伴う、いわゆるカナー型自閉症を指していました。その後、言語発達の遅れのないアスペルガー障害が着目され、スペクトラム概念が強調されるようになりました。最新の診断基準であるICD-11, DSM-5ではこれらの用語がなくなり、自閉スペクトラム症に統一されました。
日本においては、平成17年(2005年)に発達障害者支援法が施行され、発達障害は、うつ病や認知症と同様に広く認知されるようになりました。大学で講義をしていましても、「発達障害」や「自閉症」を初めて聞いた、という学生はほとんどいません。発達障害の認知が広がるにつれ、患者数の増加、児童精神科医の不足、診断ラベリングの問題、その後の支援の問題など、多くの問題が山積していますが、可視化され、議論されるようになったことで、全体としては良い方向に進んでいるのではないかと思います。
いっぽう研究面では、どこに問題があり、何を解決していくべきなのか、がいまだ整理しきれていないのが実情です。近年の臨床研究、生物学的研究において、同じ自閉スペクトラム症でも、児童と成人とではその特徴が異なることが指摘されています。また、欧米諸国と日本では、同じ発達障害とラベルされた研究でも、生物学的特徴が異なることがわかってきています。社会背景や文化的背景、歴史による変遷によって、発達障害とラベルされた研究成果が、そのまま現代の日本の当事者に当てはめてよいのか、という懸念をもたなくてはなりません。
当教室の新設背景には、独立した児童精神医学教室により、こころの発達の問題に関して、関連領域と連携して研究を展開する重要性、リサーチマインドを持った児童精神科医の育成が掲げられています。教室が開設して15年が経過し、研究と臨床の両輪をさらに有機的に回し、日本におけるこころの発達医学の発展を担うことが期待されています。そのために教室員一同とともに努力していきたいと思います。



